木鐸社

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『レヴァイアサン』51号 特集 地方議員と政党組織

ISBN978-4-8332-1167-3 C1031 2012年10月15日発行

〔特集の狙い〕地方議員と政党組織 (文責 大西 裕・建林 正彦)

 日本の政党政治に対する不信感は募る一方である。有権者の主要政党に対する支持率が低下の一途をたどり,支持なし層が増加を続けていることは周知のとおりだが,政治学者の中にも政党へのあからさまな不信感を表明する者が多くなってきたように思われる。政治改革の20年を失敗と評価し,一部のジャーナリストや政治家と共に,中選挙区制への回帰を提案する論者がいる一方で,選挙制度改革とその結果としての二大政党制化をある程度肯定的に評価しながらも,政党が国民の代理人としての機能を十分に果たしてこなかったことを批判する論者もいる。
 では日本の政党組織は,比較政治の中でどのような特徴を持ち,どのように変化してきたのであろうか。またその特徴はどのような要因に規定されているのか。今回の特集は,「地方議員と政党組織」と題して,都道府県議会議員に対するアンケート調査(「2010年全国都道府県議会議員調査」)結果を分析する諸論文を掲載しているが,この調査は,マルチレベルの政治制度ミックスと政党組織の関係を,国際比較,国内比較を通じて解明することを目指した共同研究の一部として,日本における政党地方組織の実態を明らかにするべく企画されたものである(科学研究費補助金基盤研究(A)「現代民主政治と政党組織の変容に関する研究」平成21年度~23年度による「比較政党組織論研究会」) 。かつて日本の政治学においては,政党組織論は大きな研究関心の対象であり,多くの研究者が実証的な研究に取り組んできたが,その後ややそうした関心が薄れ,研究蓄積の希薄な時期が続いたようである。しかしながら近年,そうした研究上の空白を埋めるべくいくつかの実証研究が公表されつつあり,この共同研究もそうした研究動向と軌を一にするものである(小宮 2010; 上神。堤 2011)。
 地方議員に対するアンケート調査としては,地域を限定して市町村議や都道府県議に対する調査を行った三宅。福島。村松編(1977),黒田編(1984),村松。伊藤(1986)などがあり,またわれわれの調査と同様に,全国の都道府県議会議員すべてを対象とした調査として小林。中谷。金(2008)がある。今回の調査に当たっては,こうした先行研究を参考にしつつ質問票作成を行った 。先行研究の多くが地方自治,地方分権に対する問題意識を強く持ち,議員の役割意識や代表観,政府間関係の認識などを重点的に調査してきたのに対して,前述の問題意識を反映して,政党組織や会派についての設問,また政党組織と議員を結びつける一つの大きな要素として選挙に関する設問が多くなっているところに今回の調査の特徴があると言えよう。質問票を巻末に掲載しているので詳しくはそちらを参照していただきたい。ただこの特集掲載諸論文については,大きな問題意識は共同研究グループと共有しつつも,それぞれが独自の課題設定のもとに論文執筆を行うという方向で研究を進めた。
 具体的には,品田論文と西澤論文が都道府県議会議員の集票活動にフォーカスを当てているのに対し,残る三つの論文はより多面的に議員の活動を捉えている。まず,品田論文は,都道府県議会議員の支持団体についてのパターン分析を行い,政党ごとに支持団体のパターンが異なることを確認するとともに,同じ自民党議員,民主党議員であっても,議員ごとに違いがあることを見出し,さらにそうした議員の支持動員戦略が,選挙区事情や議員個人の属性に規定されることを明らかにした。国政レベルの二大政党化にもかかわらず,地方議員は政党ラベルに頼り切るのではなく,独自の集票戦略を模索し続けているというのである。これに対して西澤論文は,各議員の得票結果を従属変数として,いかなる選挙戦略が実際に有効であったのかを分析する。都道府県議会が採用する小~大選挙区制のもとでは,得票の最大化を目指す議員ばかりでなく,当選ラインのクリアを目指す得票効率化指向の議員が混在するが,同論文はこの目標の違いを議員の「年齢」を用いて操作化することで分析している。すなわち「年齢」「選挙区定数」をコントロールした場合には,選挙期間中の選挙戦略や他レベルの政治家との支援関係には得票効果は確認できないが,選挙期間外の日常的な政治活動については,その特定のパターンが得票にプラスの効果を持つことが明らかにされるのである。
 つぎに,建林論文は,日本の国政レベルと地方レベルの執政制度と選挙制度のミックスは,地方議員にとって国政政党ラベルの価値をより小さいものとし,政党の地方における組織基盤を弱いものにしてきたとの仮説を提起し,選挙区定数と,都道府県議会議員の政党に対する態度や行動の関係からこれに一定の証拠を見出す。すなわち小選挙区,あるいは定数の大きな選挙区の議員は,国政主要政党への依存度が低く,自律性も高いことが示される。砂原論文は,都道府県議会議員が他の政治家とのどのような関係を持っているのかという質問に基づいてクラスター分析を行い,3つのパターンの議員が存在することを見出す。すなわち国会議員と強いつながりを持とうとする政党志向の議員,他レベルの議員との関係が希薄な個人志向の議員,知事や首長とも,国会議員とも適度な関係を使い分ける議員の3種類が識別できるという。こうした知見は,マルチレベルの制度配置の中で,都道府県議会議員が政党活動家としての顔と地方議会のメンバーとしての異なる顔を持ち,使い分けている様相を描き出していると言えよう。最後に曽我論文は,地方政治における政党と会派の違いに注目し,都道府県議の態度と行動を分析する。その結果,地方議会においては,国政レベルほどには政党,会派が一対一に対応しておらず,地方議員が,所属政党と所属会派を様々に使い分けている様相を見出している。マルチレベルの制度配置の中で,地方議員は,所属政党から一定の自律性を保ちながら独自の政治活動を行っているというのである。総じて今回の特集では,都道府県議会議員の様相を,特に政党,会派,選挙の関係から多角的に描き出すことに成功したものといえるだろう。(以下略)


目次
<特集論文>
都道府県議会議員の支持基盤 品田 裕
都道府県議会議員の選挙戦略と得票率 西澤 由隆
マルチレベルの政治制度ミックスと政党組織 建林 正彦
マルチレベル選挙の中の都道府県議会議員 砂原 庸介
政党・会派・知事与野党 地方議員における組織化の諸相 曽我 謙悟
<独立論文>
国籍取得要件を変える政治的要因 中東欧10カ国のパネルデータ分析 中井 遼
<書評論文>
政治理論と日本政治研究
 斉藤 淳著『自民党長期政権の政治経済学:利益誘導政治の自己矛盾』
 山本健太郎著『政党刊移動と政党システム』
 上川龍之進著『小泉改革の政治学:小泉純一郎は本当に「強い首相」だったのか』
評者=田村 哲樹
日本政治研究における歴史的制度論のスコープと課題
 北山俊哉著『福祉国家の制度発展と地方政府:国民健康保険の政治学』
 佐々田博教著『制度発展と政策アイディア:満州国・戦時期日本・戦後日本にみる開発型国家システムの展開』
評者=稗田 健志
<書評>
大統領制としての日本の地方政府
 砂原庸介著『地方政府の民主主義:財政資源の制約と地方政府の政策選択』
評者=粕谷 祐子
国際金融の近代日本政治外交史へのインパクト
 三谷太一郎著『ウォールストリートと極東:政治における国際金融資本』
評者=木村 昌人
「終戦」と「再軍備」の軌跡
 鈴木多聞著『「終戦」の政治史:1943-1945』
 柴山 太著『日本再軍備への道』
評者=武田 知己
「資源制約型政党」の存続と成長
 上神貴佳・堤 英敬共編著『民主党の組織と政策』
評者=成廣 孝

◆毎号真っ先に読まれる「編集後記」51号

飯田 敬輔

 「アラブの春」ならぬ「福島の夏」が日本に訪れた。今年の海の日の反原発デモへの参加者は主催者側の発表で17万人(警察発表では7.5万人)と,空前の規模に達した。これだけ一般市民による抗議活動が盛り上がったのは,安保闘争以来ではあるまいか。しかし一つ気になることがある。メディアでは主婦や若者などがツイッターなどを見て参加しているという風に報道されてはいるが,写真や映像で見る限り,参加者の平均年齢はかなり高いようである。ここが「アラブの春」やアメリカの「オキュパイ・ウォール・ストリート」などとの大きな違いであろう。たぶん,「安全な国を子孫に残したい」という一心なのであろうが,このままいくと国を残す子孫がいなくなる。エネルギー政策も大事な問題であるが,より深刻な少子高齢化は院外政治にも訪れている。

大西 裕

 今回は建林正彦氏をゲストエディターとしてお迎えして特集を共同編集した。現在,日本は政党政治の大きな転換点に立っており,政党のあり方が様々なところで議論されている。しかし,有権者との直接のインターフェースである政党の地方組織についてはあまり顧みられることがない。今回の特集は,政党研究はもちろんのこと,近年の議論にも一石を投じるものになるであろう。特集に関連して,もう一言。もととなった共同研究では,私も民主党と自民党の地方組織に押しかけてインタビューしたが,政党関係者の皆さんの協力姿勢に大変感じ入った。地方議員をはじめ,調査でお世話になった皆さま,どうもありがとうございました。このようなオープンな真摯さがあるので,政党政治に私は希望を抱くのである。

鹿毛 利枝子

 少し前のことであるが,ひょんなことから世銀関係者とのシンポジウムでパネリ ストを依頼された。対外援助は全くの門外漢で,準備に頭を抱えたが,いざ調べ 始めてみるとなかなか面白い。たとえば世論調査でみると,対外援助に対する国民の支持は,バブル崩壊以降,低下の一途を辿っていたのが,2005年頃を境に上昇に転じ,リーマン。ショック以降も伸び続けているのが分かった。とりわけ対外援助を支持する理由の変化が興味深い。従来は「世界からの貧困の撲滅」などを挙げる人が多かったのが,近年は「日本が外交目的を達成するための手段として援助を活用すべきである」という,戦略的な理由を挙げる人が増えている。日本人の外交観も変わってきているということであろうか。またどなたか専門の方に教えて頂きたい。

増山 幹高

 選挙制度改革は二大政党制化を促し,総選挙を政権選択の機会にしつつある。しかし,政権の実績と将来を比較した政権選択かというと,民主党の政権運営,なかんづく消費税の引き上げは,有権者による政権選択がなお道程の長いことと思わざるを得ない。決められない政治を打開するため,二院制や選挙制度の見直しが主張される。しかし,両院間で意見の相違が生じるならば,そうした対立がなぜ一院内で生じないと言えるのか。また,二大政党制より多党制のほうがなぜ合意が得られ易いのか。次期総選挙で制度の改廃が主張されるならば,少なくとも制度の改廃がいかなる帰結をもたらすのか,政治制度の適切な理解に基づいた議論が展開されることを期待したい。

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