木鐸社

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『レヴァイアサン』47号 特集 選挙サイクルと政権交代

ISBN978-4-8332-1163-5 C1031 2010年10月15日発行

〔特集の狙い〕選挙サイクルと政権交代 (文責 大西 裕)

 今回の特集の狙いは,選挙サイクルが政党,政権交代に与える影響を検討することにある。選挙サイクル,とりわけ大統領制国家において執政府と立法府の構成員に関する選挙サイクルの違いが政党制に与える影響についてはシュガート等の一連の研究がある。例えば,大統領選挙と国会議員選挙が同時になされる同期選挙に比べ,非同期選挙の方が議会の大統領与党は勝ちにくく,その間隔が空けばあくほど与党の敗色は濃厚になるなどである。しかし,選挙サイクルの効果は他の執政。選挙に関する制度に比較してまだまだ不明な点が多い。
 選挙サイクルの政党政治への影響は,議院内閣制をとる日本においても重要である。定期的に選挙がなされる参議院選挙と4年任期で解散による選挙が常態化している衆議院選挙では選挙サイクルは通常一致しない。二院制をとる国では議院内閣制であっても非同期選挙が政党政治に影響を与えるとして不思議ではない。実際,2009年の衆議院選挙を受けた政権交代では,2007年の参議院選挙における自民党敗北とその結果生じた,いわゆる「ねじれ国会」が一つの契機になっている。選挙サイクルは,地方政治においても影響を与えている。いわゆる亥年現象はその一つで,中央-地方間のサイクルの効果であり,地方の首長,議会選挙はしばしば国政の中間評価と見なされるが,それは選挙サイクルのずれによるものである。
 こうした選挙サイクルの非同期性は政権交代,そして政策にも影響を与える。選挙による政権交代は有権者に政策転換を期待させる。しかし,大統領制の場合は議会,議院内閣制の場合は第二院の構成がヘテロである場合,政権交代効果は限定的になるであろうし,逆に,議会や第二院での選挙が政権交代を促進することもある。
 このように選挙サイクルは政党政治やさらに政権交代にも影響を与えているとする観察は多くあるものの,体系的な調査。分析は十分になされてはいない。本特集のこのような問題意識に対し,今井論文は衆議院選挙と参議院選挙に対する有権者の意識の違いが政権党への投票に与える影響を析出し,待鳥論文はアメリカにおいては大統領与党が替わるという意味での政権交代が政策転換には必ずしも結びつかないことを明らかにしている。他方,浅羽。大西。春木論文は,大統領選挙と国会議員総選挙の非同期性が周期的に変動する韓国をとりあげ,砂原論文は日本の広域自治体選挙に関して,議会選挙と知事選が一致するかどうかが地方議会会派に与える影響を分析した。


目次
<特集論文>
国政選挙のサイクルと政権交代 今井 亮佑
アメリカにおける政権交代と立法的成功 待鳥 聡史
韓国における選挙サイクル不一致の政党政治への影響 浅羽 祐樹
大西 裕
春木 育美
地方における政党政治と二元代表制 -地方政治レベルの自民党「分裂」の分析から 砂原 庸介
<独立論文>
新しい社会的リスクの比較政治経済学 -拒否権プレーヤーを用いた計量分析 稗田 健志
<学界展望論文>
国際関係論における歴史分析の理論化 -外交史アプローチによる両者統合への方法論的試み 保城 広至
<研究ノート>
投票行動における福祉と防衛の比較考量 -戦後日本の有権者にとっての「大砲」と「バター」 大村 華子
<書評論文>
田中愛治他『2009年,なぜ政権交代だったのか―読売・早稲田の共同調査で読み解く日本政治の転換』勁草書房,2009年
菅原 琢『世論の曲解:なぜ自民党は大敗したのか』光文社新書,2009年
岡﨑 晴輝
<書評>
山田哲也『国連が創る秩序:領域管理と国際組織法』東大出版会,2010年 評者=篠田 英朗
北村亘『地方政治の行政学的分析』有斐閣,2009年 評者=名取 良太
保城広至『アジア地域主義外交の行方 1952-1966』木鐸社,2008年 評者=宮城 大蔵
吉田徹『ミッテラン社会党の転換 -社会主義から欧州統合へ』法政大学出版局,2008年 評者=森本 哲郎

◆毎号真っ先に読まれる「編集後記」59号

大西 裕

 本号の編集を担当した。かねてから思っていたのであるが,選挙とそれに関連する様々な政治現象は,立派に行政学の研究対象である。本号で取り上げた選挙サイクルは,選挙結果や政党のみならず,行政のあり方にも影響を与える可能性がある。選挙の結果生じる政権交代は,見方を変えると政権移行であり,官僚たちがそのプロセスに深く関与せざるを得ない。そもそも選挙それ自体,現代では行政の存在なしに実施困難である。 しかし,学会間の棲み分けのせいか,選挙が行政学の対象として本格的に考えられたとは寡聞にして知らない。行政学者として,あるいは選挙研究者とジョイントして,この未開拓の領域に足を踏み入れることができないか。ひとまず選挙管理や政権移行の研究で挑戦しているところである。

増山 幹高

 創業者世代は,一党優位体制を特殊な病理的現象とするのではなく,政治学の共通言語で理解可能にすることを目指した。創刊から20年余が過ぎるとともに,衆議院の小選挙区制導入は二大政党化を推進してきた。デュヴェルジェの予測するところとはいえ,5回の総選挙で実質二人の候補が競合する選挙区が大多数となったのは,英米の選挙事情と比べても際立っている。ただし,議会制度は変っていない。憲法は参議院を内閣とは独立した存在とし,両院の一致を国会に求めている。それを担ったのは一党優位体制では自民党内調整であった。二大政党制において両院の多数が異なるならば,国会の議決は与野党間交渉によるほかない。再び衆参ねじれ状況となったが,それを病理的現象ではなく,憲法構造の適切な理解に基づいて,冷静に議論していくことが先達の教えであろう。

加藤 淳子

 同期の編集委員と一緒に私も1年前交代する予定であったが,他の3人から「引き継ぎに残って」と言われてしまった。11年間フリーライドしたとひそかに反省していた矢先,「天網恢恢疎にして漏らさず」とはこのことと痛感した。1年で償いができたか疑問ではあるが,やっと卒業である。在任中いろいろなことがあり,投稿者,読者,書評委員,他の編集委員の方から,様々なことを学ばせていただき本当に有り難く思っている。またこの場を借りて,編集の坂口さんにも御礼を申し上げる。彼女がいなければレヴァイアサンがこんなに長く続くことはなかったと思う。感謝の言葉もない。新しい編集委員の方へのエールで,最後の編集後記を終えたい。

飯田 敬輔

 この度縁あって本誌の編集チームに加わることになりました。専門は国際政治,国際政治経済論ですが,その他にも政治学の理論,方法論一般について幅広く関心がありますので,これらの方面で貢献ができればと思っております。若い方々にエネルギーを分けていただきながら精一杯頑張る所存ですので,何卒宜しくお願いいたします。

鹿毛 利枝子

 編集に参加することになった。この「編集後記」がほぼ初仕事である。おそらく多くの読者の方と同様,私も本誌を手にするとまずは編集後記に目を通すのが常であったが,いざ書くことになるとなかなか難しい。日ごろからネタを考えておかなければと感じる。それはさておき,とりわけ国内外で政治の動くこの時期,大胆な問題提起で論争を巻き起こすような誌面にしていきたい。

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