木鐸社

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『レヴァイアサン』46号 特集 変化する政治,進化する政治学

ISBN978-4-8332-1162-8 C1031 2010年4月15日発行

〔特集の狙い〕変化する政治,進化する政治学 (文責 河野 勝)

 『レヴァイアサン』が発刊された1980年代末と今日とでは,政治学をめぐる日本の状況は大きく変貌をとげた。たしかに,メディアで政治が語られるときには,いまだに直感や印象に基づくだけの時事評論的言説が幅を利かせているといえなくもない。しかしその一方で,本誌がまさにリードしてきた「理論的」あるいは「実証的」な研究はこの20年の間に着実に広がり,日本でも一般に政治学が社会科学の一分野として認知されつつあるように思われる。いまでは,欧米の政治学において発達した方法と方法論を身につけ,オリジナルで高い水準の研究を積極的に海外に発信しようとしている若い世代の研究者たちも多い。
 ただ,専門性や先端性を追求することが及ぼすかもしれない副作用には,自覚的でなければならない。「理論的」あるいは「実証的」な分析に傾倒するが故に,既存の理論にあてはまりやすい問題や実証しやすい事例ばかりに目が向き,結果として現実政治の中で重要な意味を持っている趨勢を見落としたり,誰もが予測できなかった大きな変化を分析対象として取り上げなかったりするとすれば,それは政治学にとって不幸なことである。そのような事態に至らないためには,他分野における新しい学術的潮流に敏感であろうとしたり,これまで橋渡しできなかった隣接分野との知的対話の可能性を探ろうとしたり,誰もまだ取り入れたことのない分析手法を果敢に導入することを試みたり,といった努力を不断に続けていかなければならないのであろう。
 本46号は,こうした問題意識に基づいて,これまで『レヴァイアサン』で取り上げられることが比較的少なかったアングルに焦点を当てて特集を組むことにした。伊藤論文は,新しい潮流としての進化政治学をサーベイし,その意義を問う。須賀論文は,多数決の根拠を正義原理に照らして分析の俎上にのせ,実証研究の前提となるべき規範理論の構築へ向けた一歩を踏み出す。西澤。栗山論文は,日本で初めて実施されたパソコンを用いた世論調査の結果から,日本人の政治参加について従来からの見解とは異なる知見を導く。山本論文は,モデル化を通じて集団防衛と協調体制が共存する国際関係のダイナミックスを解き明かし,21世紀世界における重要な安全保障問題に新たな光明を当てる。


目次
<特集論文>
政治学における進化論的アプローチ 伊藤 光利
多数決均衡の規範理論的考察 ―社会保障の政治経済学をめざして― 須賀 晃一
面接調査におけるSocial Desirability Bias ―その軽減へのfull-scale CASIの試み― 西澤 由隆
栗山 浩一
21世紀の国際安全保障 ―集団防衛と協調的安全保障の併存と拡大― 山本 和也
<特別寄稿>
二重の国会制度モデルと現代日本政治 川人 貞史
<独立論文>
政治体制変動の合理的メカニズム ―幕藩体制崩壊の政治過程― 境家 史郎
<書評論文>
沖縄返還交渉と安全保障政策 ―施政権返還をめぐる最近の研究動向
 Nicholas E. Sarantakes, Keystone: The American Occupation of Okinawa and U.S.-Japanese Relations, Texas A&M University Press, 2000
河野 康子
<書評>
最初に出会う最も難しいテーマ:首相の権力とは?
 高安健将『首相の権力:日英比較から見る政権党とのダイナミズム』創文社,2009年
評者=北村 亘
<研究動向論文>
滅びゆく運命(さだめ)? -政軍関係理論史 三浦 瑠麗

◆毎号真っ先に読まれる「編集後記」46号

大西 裕

 現在,友人たちと選挙管理の日韓フィリピン比較研究を行っている。選挙は民主政治最大のイベントで耳目を引くが,選挙管理は地味で目立たない。しかし公正中立に運営されないと選挙は信用されず,民主政治は機能しない。他方,政治家にとって極めてクリティカルなため,行政干渉など政治化される危険性が高い。中立性を担保するのは選挙管理機関の独立性である。意図的な開票操作が難しい今日,焦点は選挙活動の監視になる。韓国は独立性が極めて高く,選挙管理は信頼されているが,フィリピンは逆である。日本はどうか。制度的な担保が強くないのに,選挙管理が信頼されている。韓国が不思議で始めた研究だが,むしろ日本の奇妙さに気づかされた。比較の重要性を改めて感じている。

増山 幹高

 レヴァイアサン創刊時に私は学部の3年であった。政治学的に物心がつく頃で,学界の新風に心が躍った。直接的な関わりは3年後に翻訳を掲載したときである。原稿が締め切りに間に合わず,蒲島先生の研究室にお詫びの電話をかけたり,小石川に原稿を持参して,出版社らしき建物を探して右往左往したり,今となっては良い思い出である。いつしかレヴァイアサンに投稿論文を載せようというのが研究の原動力となり,レヴァイアサンとともに研究者として成長してきた感がある。論文投稿は学会の年報でも普通になってきたが,やはりレヴァイアサンは別格だと後々の世代にも思われるよう編集に携わることを使命としたい。

加藤 淳子

 脳認知科学という新しい分野に手を広げ,今までやってきた研究を続けるのが億劫になるのは避けられない。が,なぜか共著の誘いや依頼が相次いでやらされて いる感じだ。租税政策研究からはこのところ遠ざかっていたが,今回の政権交代の変化をふまえた説明ということで国内から依頼があったばかりでなく,チューリヒ大学から,「租税と福祉国家」連続講義シリーズの講師にという依頼まで来た。6,7年前に書いた本に関心を持ってもらい,ヨーロッパ外からの講師は一人ということで,嬉しくてつい引き受けてしまった。あまり人のやっていない分野を歩いてくると,怠け者でも外から励まされて(?)研究は続けられるらしいというのが最近の教訓だ。

河野 勝

 40を過ぎた頃から社会の中で自分に与えられた役割を考えることが多くなり,教科書や翻訳のシリーズを手がけてきたが,その延長として『レヴァイアサン』の編集委員をお引き受けすることにした。日本で(主に)日本人が日本語で政治学の研究を発表することに何の意義があるのかという,本誌に対して当然浴びせられるべき問いかけに対しては,とりあえず,かの有名な言葉を返しておきたい。「井の中の蛙は,井の外に虚像をもつかぎりは,井の中にあるが,井の外に虚像をもたなければ,井の中にあること自体が,井の外とつながっている。」この言葉の作者たちが激しく論争していた時代の無垢な熱情を,い まの若い世代の研究者が受け継いでいることを願いつつ。。。

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