木鐸社

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『レヴァイアサン』44号 特集 ニューロポリティックス,ニューロエコノミックス

ISBN978-4-8332-1160-4 C1031 2009年4月15日発行

〔特集の狙い〕ニューロポリティックス,ニューロエコノミックス (文責 川人 貞史)

 社会現象を理解し説明するための研究である社会科学において,これまで,人間の行動選択を説明するための無数のモデルが提案されてきた。それらは,大まかに,社会学的モデル,心理学的モデル,経済学的モデル,政治学的モデルなどと分類されることもある。近年のゲームの理論の隆盛によって,社会科学全般において,効用関数を定義して効用最大化をめざす合理的選択モデルが広く用いられるようになっている。また,効用理論に対して,人の認知。評価を価値関数を用いてより適切にモデル化しようとするプロスペクト理論も提唱されている。
 本号の特集では,認知科学者に社会行動に関するフロンティアの研究に関する寄稿を依頼し,さらに最先端の分野として,脳神経科学が政治や経済における人間行動を説明する可能性を探究する研究の寄稿を依頼した。人体各部の断面図を痛みや危険を伴わずに撮影できるfMRI装置の格段の進歩によって,脳内活動を直接計測できるようになり,政治的経済的行動選択を行うとき,脳のどの部位が活動しているかがわかるようになった。それによって,異なる意思決定や認知,態度が脳の異なる部位の活動を伴うことが明らかにされつつある。脳活動の情報データが独立変数か従属変数かは必ずしも明らかではないが,神経メカニズムにもとづいて実験結果を解釈することは,人間行動の理解をさらに深めることに貢献するだろう。
 ATR脳情報研究所のチームによる春野・田中・川人論文は,報酬系とよばれる脳の部位が政治的経済的決定に果たす役割についてのニューロエコノミックス研究の進展を概観している。
  山岸論文は,集団内協力行動と集団間攻撃行動が人の普遍的な人間性の一部をなすという議論のもととなった最小条件集団実験を,まったく新しい視点から見直し,理論的ブレイクスルーを導いた著者自身たちの研究について論じている。
 加藤・井手・神作論文は,選挙キャンペーンCM視聴による候補支持選択,感情温度の変化と前頭葉の活動との相関を発見した著者たちの研究を紹介し,ニューロポリティックス研究の可能性を論じている。
 長谷川。長谷川論文は,進化生物学の知見にもとづいた人間の生物学的な適応的性質によって政治的行動を理解し説明する進化政治学の可能性を論じている。


目次
<特集論文>
政治的,経済的決定における報酬系の役割 春野 雅彦
田中 沙織
川人 光男
集団内協力と集団間攻撃 -最小条件集団実験の意味するもの 山岸 俊男
ニューロポリティクスは政治的行動の理解に寄与するか -fMRI実験の方法の意味とニューロポリティクス実験のもたらす含意についての考察 加藤 淳子
井手 弘子
神作 憲司
政治の進化生物学的基礎 -進化政治学の可能性 長谷川 眞理子
長谷川 寿一
<研究ノート>
経済制裁と権威主義体制の抵抗力 -一党制・軍政・個人支配 田中 世紀
湯川 拓
<座談会>
『日本の地方政治 -二元代表制政府の政策選択』をめぐって 伊藤 修一郎
曽我 謙悟
増山 幹高
待鳥 聡史
<書評>
古い酒を新しい皮袋に
 Robert Pekkanen, Japan's Dual Civil Society: Members Without Advocates, Stanford University Press, 2006
評者=篠田 徹
制度とガバナンスの国際政治分析
 山本吉宣著『国際レジームとガバナンス』有斐閣,2008年
評者=鈴木 基史
アメリカ型福祉国家レジームはなぜ特殊なのか?
 西山隆行著『アメリカ型福祉国家と都市政治 -ニューヨーク市におけるアーバン・リベラリズムの展開』東京大学出版会,2008年
評者=西川 賢
議会政治、立法過程の論じ方 -総論と各論のはざまで
 福元健太郎著『立法の制度と過程』木鐸社,2007年
評者=森 裕城

◆毎号真っ先に読まれる「編集後記」44号

加藤 淳子

 政治行動理解のための脳神経科学の意義は何か?本号掲載論文はその問いに答える試みである。同じ質問を学生にされた時こうも答えた。「今までの研究の中で一番面白い」と。新しい分野なので,専門論文の投稿は困難を極め読んでももらえないまま門前払いで何誌にも挑戦し,そのたびに雑誌のスタイルに合わせ書き直した。が,それも本当に楽しかった。共著者の神作博士は「今度は英文何千語ですか」と嬉しそうに聞く私にあきれていたかもしれない。実は脳神経科学は 生まれ変わったら(!)やりたいと思っていた。若い頃には今の年齢になった時にはそれまでの蓄えで安定した研究生活を送ることを漠然と考えていたが,予想とはうらはらに来世の夢に挑戦して睡眠時間を削り原因不明の高熱(知恵熱?)まで出た1年だった。安定と蓄えのない者には挑戦の喜びがある。つくづく神様は公平だと思うこの頃である。

川人 貞史

 2005年の総選挙から4年足らずの間に,小泉純一郎,安倍晋三,福田康夫,麻生太郎と四人の首相が政権を担当した。2007年参院選以来の衆参ねじれの国会運営を苦にして二人が辞任し,三人目も悪戦苦闘中である。昨年,麻生首相の漢字の読み違えがマス。メディアでおもしろおかしく取り上げられて,首相の教養や資質にも注目が集まった。もちろん,それが,内閣支持率の低下の主要な原因ではないが,ほんの少しは貢献しただろう。踏襲をふしゅう,頻繁をはんざつ,詳細をようさい,未曾有をみぞうゆと誤読したが,誤読自体は誰でも結構経験があるはずである。たいていの人は,いつか間違いに気づいて誤読を減らしていくのである。ただ,麻生首相の場合,六八歳であることが,気にかかるだけである。

辻中 豊

 シビルソサエティ国際エンサイクロペディアの「日本の市民社会とソーシャルキャピタル」の大項目を執筆した。順調にいけば今年中に出版される。あっさり引き受けたが,結局,90年前後から現在にいたる文献を再読し,関連統計をすべて最新にし,数十のファイルを再検討し,何人かの若手の手を煩わせ,大騒ぎの後英文四千語余りの小品となった。収穫はあった。自分の中で曖昧であった日本の市民社会の「曲がり角」に確信を持つことになった。96年以後十年で総団体財政は3割減で80年初頭水準に,市民の参加も「どれにも不参加」が二割から四割近くへ急増した。特に所謂,利益集団組の退潮が著しく自民政治の基礎は空洞化している。他方で量は4万に迫るNPOを支える政策措置は整わない。メディアポピュリズムの背景である。

真渕 勝

 今回はこの場を宣伝に使わせていただきます。
 去年の初めからかかりきりだった行政学の教科書,ようやく校正の段階に入りました。
 共著の行政学の教科書はかなりあり,高い質を維持していると思いますが,単著のそれの数はほんのわずかです。西尾勝著『行政学』と村松岐夫著『行政学教科書』が代表作というところでしょうか。いずれも私自身,大いに勉強させていただいた優れた教科書であると思います。ただ,前者は制度記述に,後者は実態分析に力点があります。もう少しバランスのとれた教科書はできないものかと長年考えてきました。
 3月末には店頭に並ぶように努力しています。かなり分厚いものになってしまい,執筆後の作業もなかなか大変です。厳しい批判がまってるような気もしますが,無視されるよりはいいだろうとも考えています。

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