木鐸社

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『レヴァイアサン』43号 特集 2001年中央省庁再編の効果

ISBN978-4-8332-1159-8 C1031 2008年10月15日発行

〔特集の狙い〕2001年中央省庁再編の効果 (文責 真渕 勝)

 2001年1月,中央省庁等改革基本法が施行された。それから7年がたつ。現時点で,どのような効果を発揮しているのであろうか。 改革のなかには,手品のようなものが少なからずある。手品には,当然,種も仕掛けもある。たとえば,特別会計の整理という改革をみていこう。
 特別会計の数は,2007年度に28あったが,2008年度に21となった。7つ減少したわけである。その理由の一つは,公共事業関連の5つの特別会計,すなわち都市開発資金融通特別会計,治水特別会計,道路整備特別会計,港湾整備特別会計および空港整備特別会計が統合されて,社会資本整備事業特別会計に一本化されたからである。これだけで4つ減少したことになる。
 この改革を,所管する国土交通省は,「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律を踏まえ」た上での改革であると説明している。しかし,その内実をみれば,新しい会計の中に,旧5会計がそのまま「勘定」という名称で引き継がれただけのことである。従来と同じく,それぞれの勘定の歳入。歳出は相互に独立して管理されている。つまり,実態はまったく変わっていないのである。
 しかも,その中身は決してわかりやすいとはいえない。歳入では,一般会計からの繰入れ,地方自治体の負担金,各種受益者の負担金,そして特定財源からの収入など様々であり,歳出でも,国土交通省による直轄事業,地方自治体への貸付,外郭団体(特殊法人や独立行政法人)への貸付等,多様である。これでは,複雑でわかりにくいと言われる特別会計の改革にはまったくなっていない。
 これなどは,官僚の得意な手品としては初歩的なものであろう。本特集の狙いは,中央省庁等改革基本法に基づいて行われた改革の仕掛けを見抜き,その実際の効果を明らかにすることである。


目次
<特集論文>
日本における中央省庁再編の効果 -融合か?混合か? 真渕 勝
官邸主導の成立と継続 -首相動静データからの検討 待鳥 聡史
特殊法人改革の虚実 松並 潤
<投稿論文>
分割投票の分析 -候補者要因,バッファー・プレイ,戦略的投票 今井 亮佑
信任的法案・解散総選挙・内閣総辞職 -不完備情報動学ゲームによる政局モデル 福元 健太郎
<研究ノート>
現代ベーシック・インカム論の系譜とドイツ政治 小野 一
<書評>
得票構造研究の集大成
 水崎節文・森裕城著『総選挙の得票分析:1958-2005』木鐸社,2007年
評者=飯田 健
「理論と実践の融合」を批判する政治学
 元田結花著『知的実践としての開発援助:アジェンダの興亡を超えて』東京大学出版会,2007年
評者=加藤 浩三
小泉政権期における有権者心理の特殊性と普遍性
 池田謙一著『政治のリアリティと社会心理平成―小泉政治のダイナミックス』木鐸社,2007年
評者=谷口 尚子
《解題》争点投票における近接性モデルと方向性モデルをめぐる論争について 田中 愛治
近接性理論は方向性理論より有意に優位か?
 谷口尚子『現代日本の投票行動』慶應義塾大学出版会,2005年
評者=福元 健太郎
福元氏の書評に対するコメント 谷口 尚子
投票行動の解明が抱えるジレンマ
 平野 浩著『変容する日本の社会と投票行動』木鐸社,2007年
評者=名取 良太
新移民法と社会統合の間
 近藤潤三著『移民国としてのドイツ 社会統合と平行社会のゆくえ』木鐸社、2007年
評者=平島 健司
国際政治とゲーム理論
 石黒馨『入門・国際政治経済の分析』勁草書房,2007年
評者=山本 元

◆毎号真っ先に読まれる「編集後記」59号

加藤 淳子

「これで君ももう脳科学者だね。」イェールの脳科学者に言われ「実験できない けれど」と答えたら,私のMRI政治学実験ドラフトと参照した脳科学論文を軽くたたきながら「読んだり書いたりして結果を解釈。議論する方が本当の仕事さ」 と言う。脳科学者もラボを持つとそれで忙しくて実際の実験は学生やポスドクに任せきりになると言う。政治学から脳科学に入った私は残念ながら実験を実際に 学ぶ時間がなかった。これからと楽しみにしていたら,早々と学生にも「先生の 操作するMRIには絶対入りませんからね」と宣言され,ついに実験できない脳科学者の誕生かと自嘲している。実験・解析は大学院生に,解析の精査・脳内活動の解釈は脳科学者に全面的に頼ったが,行動と脳活動の関係の解釈・議論とWeb of Scienceでの脳科学論文渉猟は,社会科学の要領で全く問題がなく,私の担当となった。成長分野かもしれない。次号は脳科学特集である。

川人 貞史

 昨年秋から衆参ねじれ国会となっている。一年以内に実施される総選挙で,野党が勝利すれば,ねじれは解消するが,そうでない限り,当分続く。今年の通常国会では,思うように国会運営ができない政府・与党には,相当フラストレーションが高まった。日銀正副総裁の同意人事では,参議院をコントロールする野党の意向次第となり,政府は振り回された。政府が新規提出した八〇件の法案のうち,衆議院を通過した六件が,参議院で審議が進まず,みなし否決されて,衆議院で再可決された。しかし,他方で,五七件は,与野党がともに賛成して成立した。政府がどうしても原案通りに成立させたいものは,再可決され,そうでないものは,与野党合意によって成立した。ねじれ国会はこのように「動いた」。

辻中 豊

 「市民社会」調査を日本全体からウズベキスタンまで11カ国(17調査5万団体以上) について11年行い続けていると常に,何が被説明変数,議論かを問われ,またその社会的効用を問い詰められる。それはたいてい外部,他分野専門家,外国人研究者や審 査員であったりすることが多い。もともと日本の民主主義への比較「好奇心」で始めたものも,最近は「日本の小政府,大赤字を説明する」とか大目的を掲げて,その答えは市民社会の構造と質にあると述べたりする。それが高じて今年の公共政策学会で は多くの財政,経済,政治経済のプロを交えて議論をすることができ,本人も再び『日本の政治』の書き直しを迫られる。外部評価は面倒だが,日本や世界全体の問題と自分のテーマを関係づけ,何らかの答えを強制されること自体は悪くないのかもし れない。

真渕 勝

 今回は依頼原稿の進め方で行き違いがあり,勉強する機会をえた。 私から電話で執筆を依頼し,快諾を得た。その後,締め切りの一ヶ月以上前に進行状況を伺うメールを書いた。しかし,私のメールに対して「依頼を受けた後,何の連絡もないので,あの企画は没になったと思い,何も書いてない」という返事があった。その後,何度かメールを入れたがお返事はいただけなかった。本誌のように,研究者が編集を進めている場合,通常の商業雑誌ほどには,丹念に催促をするわけではないことは確かである。信頼関係で進めていると甘えているところがあるからかもしれない。 私の認識では,研究者仲間として依頼したが,先方の認識はそうではなかったようである。若くても「大家」はいるものだということを,肝に銘じなければならないのかもしれない。M氏からはこのことを学んだ。

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