木鐸社

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『レヴァイアサン』41号 特集 現代日本社会と政治参加

ISBN978-4-8332-1157-4 C1031 2007年10月15日発行

〔特集の狙い〕現代日本社会と政治参加 (文責 加藤 淳子)

 制度から民主主義を考える一方で,その制度を成立させる素地としての市民社会について,政治文化や政治参加という観点から分析を行うことは,政治学の伝統的なアプローチである。そこで分析の対象となるのは,制度と対置される個人であった。その個人間の関係に何らかの法則性や意味を見いだし,民主主義の基盤としての市民社会という観点から,必ずしも政治に関わらない組織や団体の実証分析に道を開いたのがパットナムであり,冒頭二論文は,この立場に立って,日本の市民社会の形成。変化と現状の実証分析に主眼を置いている。
 巻頭の辻中他論文は,政府でなく,営利企業でなく,私的な親密集団でない,自治会,社会団体,NPOを,政治社会のガバナンスを支える市民社会の担い手として捉え,それらを対象に調査を行い,実証分析のための公共財としてのデータを提供するとともに,基本的な分析を行うことにより,仮説の検証のみならず,今後の調査の方向性も探るという目的を持ったものである。市民社会の研究は,実証を重視し,いかにその実現を図って行くかに,今後の研究の成果がかかっているのである。現在の市民社会が過去のそれとつながり経路依存性を持つ以上,現時点における現象の理解に歴史分析は不可欠である。調査やデータの蓄積は過去にさかのぼって行うことはできない一方で,データや資料が欠落,不足しているという理由で歴史分析を避けることはできない。
 鹿毛論文は,この問題を,代替的データを収集し,それらの分析によって検証可能な仮説を立てることによって解決する。データを発掘し収集する地道な方法を提唱しつつ,定量的分析に定性的分析も加え,仮説を検証して行くという提案は傾聴に値する。
 こうした市民社会の観点の重要性は論を俟たないが,他方で,民主主義における,最も基本的かつ効率的な政治参加が,選挙によって担われている事実は変わらない。選挙においては,代表する側の政治家がどのような代替的選択肢を提供するかによって,投票を通じての有権者の選択,すなわち,政治参加のあり方も変わる。
 濱本論文は選挙制度改革前後の議員の政策選好を比較し,有権者の選択の前提条件を明らかにする。
 遠藤論文は,選挙運動と言う直接的手段によって投票参加が促されることを示し,政治参加を考える上での選挙の重要性を改めて示唆する。


目次
<特集論文>
日本の市民社会構造と政治参加 -自治会,社会団体,NPOの全体像とその政治関与 辻中 豊
崔 宰栄
山本 英弘
三輪 博樹
大友 貴史
日本における団体参加の歴史的推移 -第二次世界大戦のインパクト 鹿毛 利枝子
選挙制度改革と自民党議員の政策選好 -政策決定過程変容の背景 濱本 真輔
選挙運動と投票参加 -選挙運動媒体が投票率と地域の得票構造に及ぼす影響 遠藤 奈加
<研究ノート>
行政的分権から政治的自律へ -スコットランド,ウェールズにおける分権要求の比較分析 川橋 郁子
<書評>
民族紛争におけるアクターと「構造」 -旧ユーゴ内戦の歴史
 月村太郎著『ユーゴ内戦―政治リーダーと民族主義』東京大学出版会,2006年
評者=伊東 孝之
日本の官のシステムの批判的検討
 大森彌著『(行政学叢書4)官のシステム』東京大学出版会,2006年
評者=稲継 裕昭
福祉国家における労働組合の役割
 新川敏光著『日本型福祉レジームの発展と変容』ミネルヴァ書房,2005年
評者=江口 匡太
「吉田路線」はなぜ続いたのか
 中島信吾著『戦後日本の防衛政策―「吉田路線」をめぐる政治・外交・軍事』慶応義塾大学出版会,2006年
評者=坂元一哉
ワシントン条約をめぐる物語と理論の間(はざま)
 阪口功著『地球環境ガバナンスとレジームの発展プロセス―ワシントン条約とNGO・国家』国際書院,2006年
評者=信夫 隆司
核保有の誘惑を超えて
 黒崎輝著『核兵器と日米関係―アメリカの核不拡散外交と日本の選択1960-1976』有志舎,2006年
評者=柴山 太
アナキーとはいえラルキーの間で
 山本吉宣著『「帝国」の国際政治学―冷戦後の国際システムとアメリカ』東信堂,2006年
評者=田所 昌幸
冷戦の変容から生まれた新しい機会を日本外交はどう戦略的に掴んだのか?
 若月秀和著『全方位外交の時代』日本経済評論社,2006年
評者=渡辺 昭夫

◆毎号真っ先に読まれる「編集後記」41号

加藤 淳子

 データ検索が非常に便利になったのは最近の現象で,新聞記事検索でも以前はそれのみに頼るのは危険だった。再分配政策決定過程で修士論文を書いた1980年代後半,私は図書館から生協まで100メートルほどの距離を何度も往復して四紙5~6年分の縮刷版を一度に4,5冊よろよろしながら運び必要な紙面の拡大コピーをした。最近,修士論文を書く学生に重要な部分のみでも新聞の縮刷版を見ることを勧めた。縦横無尽にデータ検索ができるはずの彼の「記事が紙面のどこにどの位に扱われているかが一目瞭然でとても有益だった」という報告は興味深かった。私の苦労も筋トレ(?)以外の意味もあったようだ。データ検索から得る情報,紙媒体からの情報,人から得る情報,全て異なる。便利さに流されることなく的確に情報を処理することにも研究者の力量は問われよう。

川人 貞史

 2006年秋から8ヶ月間ミシガン大学日本研究センターの客員教授をつとめた。これまで客員研究員としてアメリカの大学にお世話になるばかりだったから,ささやかなお返しである。もっとも,このポストは教育負担が軽く,むしろ,研究と待遇の特権の方が大きかった。以前の滞米時もオフィスなどよい待遇は受けてきたが,それにもまして,今回は大学が提供してくれたリソースを活用することができ,ファカルティの研究者にとってすばらしい環境が整備されていることに感心した。授業の方は,関心はあるが知識のない学生たちにアサインメントを読ませ,あれこれと説明し,また質問を投げかけて考えさせると,懸命に勉強してくれた。すべての学生のモラルが高いわけでなく,また,内容のレベル設定には気をつける必要があったが,日本の学生たちとは違う勉学態度が印象的だった。

辻中 豊

 本文にあるように2006-07年にかけて,日本全国の市民社会組織,自治会の1割,電話帳所収団体と登 録NPOの全数,合計15万近くの団体調査を行った(回答は全部で4万弱)。調査会社に委託するのでは なく大学でほとんどの作業工程を行い,一部定型化した作業のみ委託したため,研究室はいつも数名 の研究者や大学院生でごった返す調査工場の様相を呈した。調査自体が設計や実施作業が大変な上に ,大学との作業方法や契約の打ち合わせ,仕様書。報告書作成,内部監査,会計監査,中間報告ヒアリング,現地調査などありとあらゆる「難儀」が降りかかり,大規模調査を推進する楽しさと苦しさ が膚身でわかる毎日を過ごした。公的資金の目的的使用は当然であるが,悪しき意味で官僚制的な不 必要文書や手続きがいかに多いか,しかもそれが事件の起こる度に日々増えていることも痛感する。

真渕 勝

 道州制論が盛んである。地方分権の受け皿として必要というのであれば,道州制の導 入にとくに反対する理由はない。問題は府県の扱いである。たとえば第28次地方制 度調査会は「広域自治体として,現在の都道府県に代えて道州を置く」と述べている。この結論の根底には,平成の大合併による市町村の行財政能力の向上に対する高 い評価がある。だが,合併によって市町村の能力はどの程度まで高まったのだろうか。合併した市町村の人口規模は,実は,人口10万未満の市町村が76%をも占め ている。しかも,2万人台がもっとも多い。この程度の規模の市町村に府県の権限のどれだけを移譲できるというのだろうか。府県を廃止するという主張は,平成の大合併の効果を過剰評価している。やはりデータは重要である。

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