『レヴァイアサン』38号 特集 行政改革後の政治と行政
ISBN4-8332-1153-X C1031 2006年4月15日発行
〔特集の狙い〕行政改革後の政治と行政 (文責 川人 貞史)
2001年1月に中央省庁が再編され,一府一二省庁体制がスタートした。この行政改革と同時あるいは相前後して,わが国の政治と行政のあり方を大きく変える可能性のあるいくつかの制度改革が行われた。行政改革会議は1997年の最終報告の中で,「第一に,内閣。官邸機能の抜本的な拡充。強化を図り,かつ,中央省庁の行政目的別大括り再編成により,行政の総合性,戦略性,機動性を確保すること,第二に,行政情報の公開と国民への説明責任の徹底,政策評価機能の向上を図り,透明な行政を実現すること,第三に,官民分担の徹底による事業の抜本的な見直しや独立行政法人制度の創設等により,行政を簡素化。効率化すること,を目指す」と答申した。
これにもとづいて,官邸と内閣機能の強化のために,内閣の首長である首相がその指導性を十分発揮できる仕組みが整備され,内閣法改正においても首相の発議権が明記された。また,政策評価機能の充実強化の方針は,政策評価法の制定施行(2002年4月)へと結実した。
情報公開については,行革会議が設置される前に行政改革委員会。行政情報公開部会が作成した「情報公開法要綱案」が,情報公開法として成立し,2001年4月から施行された。
これらの動きとは別に,1999年の自民党と自由党の連立政権を契機として国会審議活性化法が制定された。その骨子は,党首の定例の討論の場となる国家基本政策委員会の設置(2000年通常国会),官僚が閣僚に代わって答弁する政府委員制度の廃止(1999年第146回国会),および,政務次官に代わる副大臣と政務官の設置(2001年1月)であった。
本号の特集は,これらの行政改革によって導入された諸制度がどのように運営されているかを現段階において分析し,それらが政治と行政のあり方をどのように変えつつあるかを明らかにし,今後の日本政治の変化を展望する。
目次 | |
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<特集論文> | |
官邸主導型政策決定と自民党 -コア・エグゼクティヴの集権化 | 伊藤 光利 |
副大臣・政務官制度の目的と実績 | 飯尾 潤 |
情報公開法と政府の行動 | 岡本 哲和 |
政策評価制度の運用実態とその影響 | 田辺 国昭 |
<独立論文> | |
なぜ自治体は規制を避けるのか? -景観条例条文の主成分分析とゲーム理論による説明の試み | 伊藤 修一郎 |
立法における変換 vs 態度表明 -国会審議と附帯決議 | 増山 幹高 |
<書評> | |
戦争、危機、同盟の力学を探求 土山實男著『安全保障の国際政治学―焦りと傲り』有斐閣,2004年 |
評者=梅本 哲也 |
ゲームツリーでなく、ゲーム理論という森をみるために 曽我謙悟著『ゲームとしての官僚制』東大出版会,2005年 |
評者=河野 勝 |
タイの経験と民主化理論 玉田芳史著『民主化の虚像と実像―タイ現代政治変動のメカニズム』京大出版会,2003年 |
評者=恒川 惠市 |
多角的な社会保障制度分析 新川敏光著 『日本型福祉レジームの発展と変容』 ミネルヴァ書房,2005年 |
評者=広本 政幸 |
大きな宝箱の巨大なカタログ 東大法・第5期蒲島郁夫ゼミ編『参議院の研究』全2巻,木鐸社,2004,2005年 |
評者=待鳥 聡史 |
利益政治論からみた女性政策研究 堀江孝司著『現代政治と女性政策』勁草書房,2005年 |
評者=三浦 まり |
◆毎号真っ先に読まれる「編集後記」38号
加藤 淳子
学生には,現実的なものであれば「一番面白いと思うこと」を研究するように必ずすすめている。私の決して長くはない研究生活の中でも個別の研究テーマから分野と呼べるようなサブジシプリンまでの栄枯盛衰を見てきた。このテーマをやっている,あ る分野が専門であるというだけで研究が脚光を浴び就職が有利になるということは実際にある。しかし,そういったテーマや分野程,顧みられなくなるのも早い。流行りであっても自分が好きで研究に取り組んだのであれば後悔はないが,研究の華々しさ にひかれた場合には得るものも少なく次の研究で早晩行き詰まることになる。困ったことに容易に他の関心を集められる研究をしているとそれを好きであると錯覚しやすい。本当の意味での好奇心が研究において重要であるゆえんである。
川人 貞史
映画スター。ウォーズが20年以上の年月をかけて完結した。悪に染まった銀河帝国皇帝とその弟子ダース。ベイダーを,平和と民主主義の擁護者であるジェダイ騎士団にベイダ ーの子ルークが加わって打ち倒し,正義と共和国を復活させる勧善懲悪の物語である。ただ,いろいろと疑問も生じてくる。たとえば,ジェダイ騎士団は正義の超能力を持つエリ ートで共和国軍の将軍たちであり,皇帝は共和国元老院によって選出された宰相だった。そして,宰相が悪に染まったことを知った将軍たちが逮捕に向かって,返り討ちにあい,ジェダイ騎士団は殺害。追放されて,帝国が誕生する。将軍たちが首尾よく宰相を逮捕で きていたとすれば,これは一種のクーデタであり,どんな民主的な解決が生じていたのか,よくわからない。宰相は「善は一つの見解にすぎない」とも言っている。こんなことを言ったら,家族からうっとうしがられてしまった。
久米 郁男
大学院教育改革として,本格的なコースワーク制の導入の検討を始めた。方 法論科目を全院生に必修とし,複数研究領域の修了試験合格を後期課程進学の 条件とするなどかなりラディカルな改革案になりつつある。どのあたりに日本 の大学院政治学教育としての特色を出すべきか,いろいろ考えさせられる今日 この頃である。
辻中 豊
昨秋,北京大学公民社会研究中心の成立大会「転形期中国公民社会的発展」に招かれた。英文では Center for Civil Society Studiesという。会議は10パネル,参加者に40論文,672 頁の大部の冊 子が配られた。欧米亜から30,総計100を越す招待者の中で日本人研究者は中国専門家でない私一人。中国語を解せず必死に同時英訳に頼っているのもUNDP代表と私の二人だけ。それでも中国社会主義 の民営化と市場化は政府でない公共性と社会制御の担い手を社会団体に求めている熱気に煽られるとともに,一党支配下ではなお公民社会としてそれは表現されることにも引っかかる。で,ふと我に返る。公民教科書,公民館,日本と同じ表現ではないか。無限に連想が湧く。他方利益集団としての中国社団という私の発表に多くの参加者がそうだと肯いた顔も印象に残った。