『レヴァイアサン』34号 特集 政官関係
2004年4月15日発行
〔特集の狙い〕政官関係 (文責 川人 貞史)
「政官関係」は,政治と官僚との関係をさす言葉であるが,頻繁に使われるようになったのは1990年代以降である。あわせて使われている言葉は,「官僚主導」に代わる「政治主導」である。官僚主導は,これまで,戦後日本における自明の特質と考えられてきた。80年代において,『レヴァイアサン』創業世代の編集委員たちも参加した,日本の民主主義体制に関する活発な論争があったが,そこでの政治家の影響力増大を指摘した諸研究も政治優位論でしかなく,政治主導ではなかった。これに対して,90年代以降における政官関係の焦点は,官僚主導の揺らぎと政治主導の確立が生じつつあるのかどうか,そして,もしそうならば,それによって政治過程がどのように変化してきているかということである。
1993年夏に登場した非自民の細川護煕連立政権以来,政策アジェンダが一新され,この10年間で政治改革(選挙制度改革,政治資金改革,政党助成),国会改革(政府委員廃止,党首討論導入),行政改革(中央省庁再編,内閣機能強化,副大臣,政務官設置,情報公開,地方分権,規制緩和,特殊法人改革),経済改革(財政構造改革,金融システム改革)など広範な領域にわたる改革の試みが推し進められた。『レヴァイアサン』は,これらに関する特集を組んだり,あるいは,これらに関する実証研究論文を掲載したりしてきた。
政官関係特集は,こうした連立政権と制度改革の時代において日本の政治過程および政策過程がどのように変容してきているかを解明する試みとして,時宜を得たものだと考えている。そろそろ,かつての日本民主主義体制論争の第二ラウンドが始まってもよい頃ではないだろうか。この特集が,そうした議論に大いに貢献することを期待している。
目次 | |
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<特集論文> | |
日本における二つの政府と政官関係 | 飯尾 潤 |
官僚制の変容 -萎縮する官僚 | 真渕 勝 |
日本官僚制の改革と政治的任命職 -内閣主導体制の構築に向けて | 新藤 宗幸 |
経済政策の国際・国内連携と銀行部門危機処理の政策経路 | 樋渡 展洋 |
<研究ノート> | |
バブル発生の政治経済学 -1985年~1989年の金融政策:制度,選好,マクロ経済政策 | 竹中 治堅 |
日本の援助政策とアメリカ -外圧反応型国家論の一考察 | 宮下 明聡 |
<研究動向> | |
アジア通貨危機の政治学 | 岡部 恭宜 |
<書評論文> | |
参与観察という手法 森脇俊雅著『アメリカ女性議員の誕生―下院議員スローターさんの選挙と議員活動―』ミネルヴァ書房,2001年 朴喆煕著『代議士のつくられ方―小選挙区の選挙戦略―』文藝春秋,2000年 |
武田 興欣 |
<書評> | |
国際協力と私的利益 Saori N. Katada, Banking on Stability: Japan and the Cross-Pacific Dynamics of International Financial Crisis Management, Ann Arbor: The University of Michigan Press, 2001 |
評者=加藤 浩三 |
東京裁判を外交政策として描く画期性 日暮吉延著『東京裁判の国際関係―国際政治における権力と規範―』(木鐸社,2002年) |
評者=加藤 陽子 |
明治立憲制のゆらぎと定着 伊藤之雄著『立憲国家の確立と伊藤博文 ―内政と外交 1889~1898―』吉川弘文館,1999年 伊藤之雄著『立憲国家と日露戦争―内政と外交 1898~1905―』木鐸社,2000年 |
評者=波多野 澄雄 |
地域研究と比較政治の間で -統計を使った地域研究の試み 浜中新吾著『パレスチナの政治文化:民主化途上地域への計量的アプローチ』大学教育出版,2002年 |
評者=平井 由貴子 |
「評論社会」の「民主政文化」 村山皓『日本の民主政の文化的特徴』晃洋書房,2003年 | 評者=平野 浩 |
◆毎号真っ先に読まれる「編集後記」34号
加藤 淳子
利根川進の『私の脳科学講義』は,研究に対する姿勢という点で社会科学者にも教えられるところが多い。特に,本書を通じて一貫している姿勢は,自分のおもしろいと思ったことをプライオリティを明確につけて追求するということである。「おもしろい」ものを見つけるのは単純なようで難しい。なぜなら「ものすごく努力する価値の あるものをおおよそのところで見つけなくてはならない」(同書,128頁)からである。これは研究者個人の責任において培うべき姿勢であるが,やはり彼の来歴を 読んでみるとその姿勢を受け入れる人と組織が存在していたことがわかる。ひるがえって考えるに現在の日本の大学は若い研究者がそうした姿勢を保持できる場になっているだろうか。組織の一構成員として責任を感じざるを得ない。
川人 貞史
さる1月14日に,2001年の参議院議員選挙の非拘束名簿式比例代表制の仕組みおよび都道府県選挙区の一票の格差をともに合憲とする最高裁判決が出た。前者については,全員一致で合憲の判断だったが,後者については,多数意見は,都道府県選挙区を採用し,半数改選によって定数が偶数となるために,一票の格差が最大五.〇六倍となったとしても国会の裁量の範囲内だとしたが,補足意見の中で,次回選挙でも現状のままなら違憲となる余地が十分あるとした。一票の格差を是正するためには,都道府県選挙区定数を現行の73から増加させるか,あるいは都道府県ごとの選挙区をやめるかしか,政治的に可能な解決はない。定数増は難しいし,都道府県選挙区は参議院の存在意義と密接に関係する。国会が最高裁の問いにどのような答えを見つけるか,興味深い。
辻中 豊
また年末。漸く『現代韓国の市民社会。利益団体』初稿を直す。日韓比較に手間取り結局2年越しである。同シリーズ04年からは年一冊は刊行したい。次は米独である。The State of Civil Society in Japan (Cambridge UP)が12月に刊行された。これは4年越しである。市民社会組織調査の方は,遂にロシア,トルコと7カ国目に入った。今年はさらにフィリッピンと日本全体の徹底調査を行う。調査回数を増やすと時系列的な分析が可能になり,単なる断面図を超え,分析が踊りだすような気がする。村松岐夫氏を中心とした圧力団体調査も3回目が完成間近となり,これと併せて頂上と基底の二側面,5時点での分析を行い,80年以降の現代日本市民社会を立体的に再構成していく試みである。
真渕 勝
今回は京都大学の宣伝。平成16年度に新しい大学院として国際公共政策専攻が立ち上がる。従来からあった職業人教育のための専修コースを改組したものである。カリキュラムの詳細はホームページ等で見ていただきたいが,英語のトレーニングや事例研究に力を入れた内容になっている。先日,入学試験が実施された。試験科目として英語を必須としたためであろうか,受験者は粒ぞろいであった。4月に入学してくるものを,実際にどのように教育していくか,楽しみである。しかし,法科大学院と異なり,少なくとも現在は課程修了がただちに職業に結びつきものではない。したがって,卒業生の商品価値は市場のなかで決められていく。いかに商品価値を高めていくか,これからが重要である。