『レヴァイアサン』33号 特集 地方分権改革のインパクト
2003年10月15日発行
〔特集の狙い〕地方分権改革のインパクト (文責 真渕 勝)
この33号の特集を「地方分権改革のインパクト」として,広く論文を募ることにした。 『レヴァイアサン』は発刊以来,公募方式を積極的に進めてきているが,特集を継続的に組むためにいわゆる依頼論文も掲載してきたという経緯がある。そこで,公募論文を中心に特集は組めないものかとか考えてきた。本号は,その最初の試みである。
テーマは2000年に実行に移された地方分権改革である。機関委任事務の廃止や法定外目的税の導入,国の関与のルール化。透明化,国地方係争処理委員会の設置などを内容とする2000年の分権改革について,改革の中身を解説する文献。論文はきわめて多いが,制度改革が実際の中央地方関係にどのような影響を及ぼしているかを調査したものはほとんどない。制度改革の効果がはっきりと現われるには,何年もかかるものと常識的には考えられる。効果を測定するのは,時期尚早であるかもしれない。しかし,公募のアナウンスメントにも書いたように,改革直後に何が起きているのかを記録にとどめておくことは,今後の研究の材料としてだけでも,価値がある。「地方分権改革のインパクト」というテーマで論文を公募したのは,このような理由による。
さて,本特集は二つの柱からなっている。
第一は,2000年の分権改革に直接関わった研究者による観察記録である。改革の当事者たちは,改革が実行に移された2年後をどのように見ているのか,これが記録に残しておきたいことであった。ことの性質上,公募論文というわけにはいかないので,執筆をお願いした。。分権改革はなお進行中であり,直接間接に改革に関わられているにもかかわらず執筆をお引き受けいただいたことを感謝したい。当事者ならではの観察とリアルタイムの分析はそれ自体刺激的であるし,今後のさらなる分析の重要な素材としても重要である。これらを活用するのはわれわれの責任である。
第二は,地方自治や中央地方関係に関する経験的研究である。北川論文は,「平成の大合併」の動向を分析の対象としている。合併に取り組む町,合併に抵抗する町についての断片的な記述は多いが,そして合併のメリット。デメリットを抽象的に指摘する記述も多いが,このように合併への取り組み状況を俯瞰的に分析したものはない。
名取論文は,補助金(国庫交付金)が地方の政策決定にどのような影響を及ぼしているかを分析している。首長の(操作的に定義された)政治的態度を通じて,補助金が地方の政策決定を大きく左右している様子がきれいに描かれている。
最後の澤野論文は,住民投票についての実態分析である。著者も述べるように,沖縄以外の地で「基地」に相当するものは何かが特定されれば,「沖縄における住民投票」の研究以上のものになる。
冷や冷やすることもなかったわけではないが,やはり今後も,機会をみつけては,公募論文中心で特集を組み立てたいと思う。編集委員一同,読者のみなさんの参加を,心から待っている。
目次 | |
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<特集論文> | |
第一次分権改革の効果 | 大森 彌 |
地方分権改革の政治過程 -「三位一体改革」と地方分権改革推進会議 | 森田 朗 |
地方分権改革と市町村合併 | 北川 雅敏 |
補助金改革と地方の政治過程 | 名取 良太 |
住民投票における投票率とその決定要因 | 澤野 孝一朗 |
2000年総選挙後の日本における政策と政党間競争 | 加藤 淳子 マイケル・レイヴァー |
<書評論文> | |
ドイツ緑の党の変容 -抵抗政党から国政与党へ |
西田 慎 |
<書評> | |
日本の国政改革と「市民社会」への展望 中野 実著『日本政治経済の危機と再生 -ポスト冷戦時代の政策過程』早稲田大学出版部,2002年 |
評者=伊藤 光利 |
政治的コミュニケーション研究のメルクマール 東大法学部蒲島郁夫ゼミ編『選挙ポスターの研究』木鐸社,2002年 |
評者=川上 和久 |
新たなる「アメリカの世紀」に向けての課題 五十嵐武士著『覇権国アメリカの再編 -戦後の改革と政治的伝統』東京大学出版会,2001年 |
評者=清水さゆり |
政治学的な制度論とは 河野 勝著『制度』東京大学出版会,2003年 |
評者=数土 直紀 |
華人の中国アイデンティティ離れを考察 田中恭子著『国家と移民 -東南アジア華人世界の変容』名古屋大学出版会,2002年 |
評者=関根 政美 |
議員立法のすすめ 谷 勝宏著『議員立法の実証研究』信山社,2003年 |
評者=増山 幹高 |
「ケインズ主義なき福祉国家体制」の構造と軌跡 水島治郎著『戦後オランダの政治構造 -ネオ・コーポラティズムと所得政策』東京大学出版会,2001年 |
評者=宮本 太郎 |
マクロな「国民統合史」研究 古矢 旬著『アメリカニズム -「普遍国家」のナショナリズム』東京大学出版会,2002年 |
評者=油井 大三郎 |
◆毎号真っ先に読まれる「編集後記」33号
加藤 淳子
よい先生というと必ずイェール大学でゲーム理論を教わった某教授を思い出 す。彼は当時の新進気鋭の経済学者で授業は複数の学部大学院の合併だった。 何気なく出た一回めのクラスで彼は板書もなく首を振り振り大変な早口で講義 し始めた。全員が殆ど理解できず,数人の学生が彼に抗議し最も優秀だった同 級生は"He is awful!"の一言で出席をやめてしまった。結局数学専攻の学部生 と経済学専攻の大学院生に混じり,多少はわかりやすくなったが依然難解な 授業に私が出ることにしたのは理由があった。あまりにも楽しそうな様子で講 義するのでこの先生がこんなに面白いと思っている理論なら学んでみようと 興味がわいたのである。彼に会わなければ政治学専攻の私がゲーム理論を学ぶ こともなかったと思う。私も政治学の面白さを学生に伝えたいと思うのだが, 面白さも伝えられずわかりやすくもならない授業を反省することが多い。
川人 貞史
本号が刊行される頃には民主党と自由党が合併しているはずである。民主党が自由党を吸収合併する形で野党結集が実現し,近く予想される総選挙では政権を争って与党対野党の対決構図が有権者に提示されることになっているだろうか。壊し屋の異名のある小沢自由党を吸収することは,トリ小屋に野犬を入れるようなものという批判に対して,菅民主党代表は,民主党はトリはトリでもタカかもしれないと切り返した。選挙目当ての政策合意のない野合という批判に対しても,政権目当ての大同団結とすずしい顔だった。民主党が掲げた政権獲得時の政策実施プランとしてのマニフェストに対しても,政権公約という形で各党が取り入れざるをえなかった。十年前の政治改革の諸制度に対する習熟がまた少し進んできたようである。
辻中 豊
前号からの作業『現代韓国の市民社会。利益団体』仕上げをまだ続けている。 言訳を重ねれば,社会学類長に再選され,「比較市民社会。国家。文化」特プ ロというプロジェクトを始めたせいである。個人を離れマクロに見れば,大学 人がなべて忙しくなっているからである。国立大学法人化,中期目標作成,COE など競争性と効率性を叫ぶプロジェクトが目白押しであり,10年来続く大学院 重点化や専門大学院創設は組織再編を強いると同時に,数多くの大学院生を大 学に溢れさせている。これは過渡期と諦めるべきか,いや違う肝心の「何か」 が欠けていると叫ぶべきか。「永久実験大学」にいるため「改革」の騒音。火 の粉にはなれていると,これ以上「草鞋」を増やさず,ひたすら自分の道を進 むべきか。毎日何かを断ることの連続である。
真渕 勝
特集のねらいの続きともいえる感想を三つ。①比較研究の重要さが認識されるにつれて,同質的な一定の数のNが期待できる「地方」は,絶好のフィールドとなってくるはずである,と考えてきたが,立派にそのようになってきている。②熱心に投稿してくれる若い研究者は多く,たのもしい。③特定のテーマで時間を切って論文を募るのは,なかなか大変だ。