木鐸社

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『レヴァイアサン』30号 特集 議会研究

ISBN4-8332-1146-7 C1031 2002年4月15日発行 定価:2000円+税

〔特集の狙い〕議会研究 (文責 川人 貞史)

 『レヴァイアサン』が議会研究を特集として取り上げるのは,三〇号プラス増刊号のなかで今回が初めてである。  議会あるいは国会に関する実証研究がこれまであまり進まなかったのは,日本の政治学における一つの顕著な傾向ではないかと思われる。議会研究は,憲法学と政治学にまたがる領域に位置する分野であることに加えて,議会制度に関する高度に技術的な専門知識が必要とされ,また,立法資料や会議録などの文書資料が膨大であるために,研究者が議会の体系的実証研究に対して尻込みしてしまう要因となっていたように思われる。
 そのため,議会研究といえば注目を集める事例にかたよった研究や国会審議に至る前段階の政策決定過程にウェイトがあるものや,実証研究にもとづかないマクロな議会制度論や政官関係論に関心が集まっていた。そして,それには,日本の政治行政の通説的見解が国会を高く評価してこなかったことも影響している。こうした事情は,欧米においては,議会研究が新制度論研究における最先端分野として多くの政治学研究者の理論的。実証的研究の対象となってきていることと対照的である。
 議会研究の主要な関心は議会運営と立法行動のあり方がどのようにして形成され,いかなる要因によって変化するかを,制度変化と行動変化の間の相互作用に注目しながら,理論的。実証的に解明することである。選挙制度や議会運営の制度ルールは議員や政党などのアクターの関係を構造づけるルールとして,それぞれの目的と利益をめざすアクターの行動選択を制約する条件となる。各アクターは,この制度的制約の中で自己の効用最大化をめざす行動をとり,それが一定の政治的結果(立法)を生ずることになる。
 しかし,同時に,アクターはこれらの制度ルールを自分の目的により合致するように作り替えようとする。その結果,アクター間で合意された議会運営ルールが形成。変更される。
 本特集に含まれる論文は多かれ少なかれこうした研究関心を共有した研究者によって執筆されたものである。
 国会を主要な研究対象とする四名による研究論文および,アメリカで活躍する第一線の議会研究者三名から寄稿された論文によって,多くの読者の議会研究に対する新たな関心が高まることを期待している。


目次
<特集 議会研究>
議院運営委員会と多数決採決 川人 貞史
議事運営と行政的自律 増山 幹高
参議院自民党と政党再編 待鳥 聡史
二院制の存在理由 福元 健太郎
米国の裁量的内政支出 1950~1999年 -大統領はここに,政党はどこに? ロデリック・キーウィート
キース・クレーブル
拒否権プレーヤーと制度分析 ジョージ・ツェベリス
プライベート・オーダリングの負の側面 -組織犯罪の制度分析と実証分析 カーティス・ミルハウプト
マーク・ウェスト
<書評>
日本政治学史研究の最近の動向と成果
 田口富久治著『戦後日本政治学史』東大出版会、2001年 を中心に
評者=加茂 利男
個性記述的分析と分析的叙述のあいだ
 田所昌幸著『「アメリカ」を超えたドル』中央公論新社、2001年
評者=鈴木 基史
中華民国政府の対日政策を分析した労作
 鹿錫俊著『中国国民政府の対日政策 1931-33年』東大出版会、2001年
評者=塚本 元
<書評論文>
制度分析のフロンティア
 青木昌彦著『比較制度分析に向けて』NTT出版、2001年
評者=曽我 謙悟

◆毎号真っ先に読まれる「編集後記」30号

加藤 淳子

 研究が続けられる所属さえ決まらず,当時の指導教官に泣きついたことがある。ところが,先生の方はあせる私に取り合わず,「大学の図書館が使えれば研究は続けられる,人間は一生に一度くらい浪人したほうがいいですよ。」と言われた上,「それより,いい研究をしなさい。そうすれば,いつかきっと誰かが認めてくれる。でも,すぐにはだめですよ」と笑われてしまった。その時は,「来年度の行き先がなくて困っ ているのに,そんな筋論を言われても」と私は不満で一杯だった。しかし,先生が鬼籍に入られてから,つくづくとその言葉を思い出す。大学が,改革,改革で走りつづけていなければ倒れると,言われるようになった今は,特に,私はこの言葉を心しておこうと思う。

川人 貞史

 政治学研究者は法学部(法学研究科)に所属する方も多いと思うが,法科大学院が近いうちに設置される見通しとなっている。政治学だから直接,専門上では協力することはできないが,無関係ではもちろんない。
 法科大学院は司法試験や司法修習と連携した法曹養成の専門教育機関であるから,従来の法学部教育における人材養成とは質的に異なる。そうすると,政治学者として関心があるのは,いわゆるキャリアの公務員がどこから供給されることになるのだろうかということである。あいかわらず法学士が主流となるのか,法学修士だろうか,それとも法科大学院卒の学位を持つ人だろうか。いずれにしても高学歴化の波がついに文科系の学生にも押し寄せてきそうである。
 さて,そこで,政治学の居場所はどこになるのか気になるところである。

辻中 豊

 年末にこの後記を書いているので,本号がでる春には世界や政治の情勢は大きく変わっているかもしれない。変化のスピードは恐ろしいばかりに急速である。
 しかし,研究者は必ずしもそれに同伴する必要はない。構造変化に取り組みそれを摘出することが仕事と思い定めている。5年越しの調査をまず『現代日本の市民社会組織と利益団体』の編著(木鐸社刊)として上梓しえた。これから暫くは,毎年このシを,韓国,ドイツ,アメリカ,中国と各国別に,比較的に纏めていきたい。
 同様に地球環境と政策ネットワークもまとめつつある。国際共同研究は本当に時間と手間のかかる仕事であるが,やっと成果を出すことができた。こうしたテーマ自体は実は25年越しである。つまり院生時代のテーマである。
 流行のテーマに浮沈はあれど,自分の仕事をするしかないと痛感する毎日である。

真渕 勝

 教科書を書く機会が増えた。もともと欲張りな方ではないが,それでも書くべきことが年々増えているような気がして,なかなか大変だ。理論は,新制度論そして合理的選択論ときて,最近はやや落ち着いている。日本でもこうした動きを反映した研究もまとめられつつある。できるだけ教科書にもとりこみたいものである。
 やっかいなのは現実の動きである。日本において制度改革がいろいろな場所ですでに行われ,さらに継続しているところもある。新しい制度の周辺で展開程はなお不安定であり,どこまで教科書に反映させるかは難しい選択である。もちろん,世の中は常に動いている。しかし,ここ10年近くの動きは,やはりすさまじいのではないだろうか。
 大学がこれまで以上に教育に力を入れることを求められているのもまた制度変化の一つである。我々の姿勢もまたなお不安定である。

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