『政治経済学で読み解く政府の行動:アベノミクスの理論分析』
A5判320頁予価:本体4500円+税 ISBN978-4-8332-2495-6 C3033
2016年8月23日刊行
著者紹介
井堀 利宏(いほり としひろ)
現在 政策研究大学院大学教授
著書
『日本政治の経済分析』木鐸社、1998年 (土居丈朗氏との共著)
『消費増税はなぜ経済学的に正しいのか:世代間格差拡大の財政的研究』ダイヤモンド社 2016年,他
小西 秀樹(こにし ひでき)
現在 早稲田大学政治経済学術院教授
著書
『公共選択の経済分析』,2009年,東京大学出版会 他
内容紹介
本書は,アベノミクスに代表される最近の日本政府の経済・財政運営や金融政策などの行動について,その理論的整合性や政治的制約要因を政治経済学の視点から理論的に分析する。
一般的に,経済政策や財政金融運営は政治的要因を抜きにしては議論できない。本書ではアベノミクスを主な議論の対象としているが,具体的な事例に関する実証分析に力点があるわけではなく,むしろ,わが国も含め,先進諸国政府が直面する経済政策や財政金融運営の諸課題を理論的な枠組みで検証し,その問題点を抽出することに主要な関心と狙いがある。こうした視点で政府の行動を政治経済学で読み解くもの。
目次 | |
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前書き | |
第1章 アベノミクスの政治経済学(井堀利宏) | |
1. アベノミクスと本書の目的 2. 金融政策の政治経済学 3. 財政出動と財政再建 3.1 公共投資の経済効果 3.2 景気対策の功罪 3.3 財政規律と財政再建 4. 経済政策の政治経済学分析 4.1 社会保障と消費税 4.2 地方創生と地方分権 4.3 グローバル化の政治経済学 4.4 選挙の政治経済学 5. アベノミクスの第2段階 第1章補論:財政破綻の政治経済学 1. 財政破綻の可能性 2. 財政再建の予算制約式 3. 日本財政の「デフォルト」はあるか 4. デフォルトと投資家の行動 5. 金融政策と財政運営のゲーム分析 数学付録: 金融政策と財政運営のゲーム分析 |
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第2章 デフレの政治経済学(小西秀樹) | |
1. デフレ脱却の処方箋 2. 物価水準決定のメカニズム 2.1 日銀は物価水準をコントロールできるか 2.2 通貨発行益と統合政府の通時的収支条件 2.3 通貨発行益と財政再建 2.4 マネタリストの不快な算術 2.5 物価水準の財政理論(FTPL) 2.6 日本政府の財政運営スタンス 3. デフレの政治経済学 3.1 政府債務の先送りと日銀の国債大量購入が物価水準に与える効果 3.2 債務返済の先送り 3.3 日銀による新発国債の購入 3.4 高齢化とデフレ 3.5 物価水準の変化による再分配効果と財政再建 3.6 公債の負担 4. 結語 |
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第3章 財政政策の政治経済学(井堀利宏) | |
1. 問題の所在 1.1 所得変動と財政再建 1.2 本章の構成 2. 分析の枠組み:モデルの基本設定 3. 最善解:既得権の操作 4. 次善解 4.1 利益団体の政治的努力 4.2 第1段階での政府の公債上限設定 5. 所得変動と公債の上限 6. 実証分析 7. 分析のまとめ:財政政策と所得変動 数学付録 |
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第4章 財政出動と財政規律の政治経済学(井堀利宏) | |
1. 公共投資の政治経済学 1.1 ケインズ政策の効果 1.2 公共投資の将来便益 1.3 公共投資と民間消費 1.4 公共投資の生産効果 1.5 公共投資の地域間配分 2. 既得権の政治経済学 2.1 公共事業における便益評価 2.2 既得権益の政治経済学 2.3 道路特定財源 3. 増税と財政再建の理論分析 3.1 増税以上の歳出増加 3.2 分析の含意 4. 財政規律と予算制度 4.1 予算制度 4.2 財政規律と予算制度改革 4.3 補正予算の守備範囲 4.4 財政規律と特別会計 5. 財政規律と政治的独立性 5.1 財政当局と政治の圧力 5.2 過大推計の誘因 5.3 政治的に独立した財政当局 5.4 財政規律の確立 |
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第5章 社会保障の政治経済学(井堀利宏) | |
1. 3党合意の一体改革 2. 将来世代への先送り 3. 公的年金の改革 3.1 2004年の年金改正 3.2 改革の先送り 3.3 公的年金の抜本改革 4. 高齢化・少子化社会の年金改革モデル 4.1 簡単な世代モデル 4.2 確定給付と確定拠出の比較 4.3 賦課方式から積立方式への移行 4.4 賦課方式年金の民営化 5. 財政健全化 パレート最適性 6. 社会保障目的税の政治経済学 6.1 基本モデル 6.2 最適な課税 6.3 政治家の行動 6.4 目的税と政策決定 6.5 モデルの均衡 6.6 シグナルの政策的含意 7. おわりに |
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第6章 消費税の政治経済学(井堀利宏) | |
1. 消費税増税 1.1 3党合意 1.2 消費税率の段階的引き上げ 1.3 所得税と消費税 1.4 消費税増税の必要性と環境整備 2. 格差是正と所得税 2.1 格差是正と税制の役割 2.2 累進的な所得税と公平性 3. 資産課税と消費税 3.1 相続税と消費税 3.2 給付付き税額控除 4. 財政再建と消費税の理論分析 4.1 モデル設定 4.2 非協力ゲームとしての財政再建 4.3 財政再建の特徴 4.4 消費税と財政再建 数学付録:財政再建の動学モデル分析 1. 最適消費税率の決定 2. 財政再建のスピードと消費税 |
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補論 一致議会からの継続法案の行方 | |
第7章 地方分権の政治経済学(井堀利宏) | |
1. 日本の地方分権 1.1 国と地方の財政関係 1.2 地方分権への動き 2. 地域間再分配と地方交付税 2.1 地域間再分配の理念 2.2 地方分権への動き 3. 地方交付税制度 3.1 交付税制度の仕組み 3.2 交付税の有効性 3.3 交付税によるただ乗り現象 4. 複数の地方政府の選択 4.1 支出面での競争 4.2 地方税の競争 4.3 競争と規制 4.4 地方債の考え方 5. 政府間財政の理論分析 5.1 ソフトな予算制約 5.2 政府間財政の理論的な枠組み 5.3 モデルの解 5.4 コメント 5.5 分析のまとめ 6. 地方分権のあり方 6.1 地方は「もらい得」か 6.2 三位一体改革 6.3 地方分権の功罪 数学付録:政府間財政の理論分析 1. パレート効率の解 2. 分権の基本モデル:ゲーム1:地方債の起債制限のない場合 3. 起債制限: ゲームII 4. 追加の移転:ゲーム I 5. ゲーム II |
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第8章 グローバル化の政治経済学(小西秀樹) | |
1. はじめに 2. 地域貿易協定の政治経済学 2.1 関税撤廃の社会的利益と再分配効果 2.2 地域貿易協定の経済分析 2.3 地域貿易協定の締結と経済厚生 2.4 地域貿易協定締結の政治経済学 2.5 域外国との貿易自由化への影響 3. 資本移動の政治経済学 3.1 居住地主義課税と源泉地主義課税の違い 3.2 最適課税理論からの接近 3.3 資本所得に対する課税競争の帰結 3.4 国際的な課税競争は起きているか 4. グローバル化がもたらすトリレンマ 4.1 効率化仮説と補償仮説 4.2 政治経済のトリレンマ 数学付録:生産効率性命題の証明 |
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第9章 選挙の政治経済学(小西秀樹) | |
1. はじめに 2. 公約の役割 2.1 1期モデル 2.2 実績投票 2.3 協調の失敗 2.4 公約の役割 2.5 マニフェスト選挙 3. 利益集団政治と選挙 3.1 利益集団政治のモデル分析 3.2 集合行為問題 3.3 一般市民が献金競争に参加できないケース 3.4 選挙の役割 4. 選挙とシグナリング 4.1 歳出削減のシグナリング・モデル 4.2 完全ベイジアン・ナッシュ均衡 4.3 分離均衡と一括均衡 4.4 選挙による選抜と動機付け 4.5 政治的予算循環 5. 大衆迎合の陥穽 5.1 原発再稼働の政治的意思決定モデル 5.2 選挙がないとき 5.3 選挙の影響 5.4 原発の安全性について情報が対称的なとき 5.5 原発再稼働の実際 |
第10章 ポスト・アベノミクスの政治経済学(井堀利宏) |
1.アベノミクスの課題 1.1 第2ステージ 1.2 規制改革は限界なのか 2. 地方創生の経済分析 2.1 分析の枠組み 2.2 分権化された解 2.3 中央政府による改革努力 2.4 公共財の代替的な生産技術 2.5 負の所得効果 3. ふるさと納税の政治経済学 3.1 ふるさと納税の仕組み 3.2 寄付税制のあり方:理論的分析 4. ポスト・アベノミクスの経済運営 |
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索 引 |