木鐸社

Tel:03-3814-4195112-0022 東京都文京区小石川5-11-15-302

『アメリカ民事訴訟手続』

アメリカ・ビジネス法13
原題:Civil Procedure 4th.ed.
A5判・252頁・定価:本体4000円+税 ISBN4-8332-2343-0 C3032 2003年8月6日発行

著者紹介

<著者>
メアリ・K・ケイン
<翻訳>
石田 裕敏

内容紹介

 初級者のための基礎的民事訴訟手続のカリキュラムとして,判決に達し,利用可能な上訴が尽されるまでの全過程を通じて,弁護士と訴訟当事者は適切な裁判所の選択およびケースの組み立てと開示の方法を学ぶ必要がある。本書はそれらの手続に沿って書かれた入門書。

目次
原著者序
第1章 はじめに
第2章 適切な裁判所の選択
 A. 事物管轄権
 B. 裁判籍
 C. 人的管轄
 D. 原告の選択に対する異議
第3章  事実審理前:訴訟の組み立て
 A. 訴答
 B. 訴答の修正および補充
 C. 当事者と請求の併合
 D. 開示
 E. 事実審理前の協議
第4章 事実審理のない裁判
 A. サマリー判決
 B. 欠席判決
 C. 取り下げと非自発的却下
第5章 事実審理
 A. 手続
 B. 陪審審理
 C. 事実審理と事実審理後の申立
第6章 判決およびその効果
 A. 判決からの救済
 B. 判決の確保と強制
 C. 判決の拘束的効果
第7章 上訴
 A. 上訴する時期
 B. 上訴の力学
第8章 複数当事者、複数請求の特殊手続
 A. クラス・アクション
 B. 競合権利者確定手続
 C. 複数地区訴訟
第9章 連邦訴訟における他の特別の問題
 A. アクセスの障碍
 B. どの法が規律するか
翻訳者あとがき

翻訳者あとがき

 いろいろな経緯から,最終的に小生がこの本の翻訳を依頼された。仕事の依頼があるのは,光栄なことだと思って,深く考えずに承諾した。後になってから,自分がこのシリーズの訳者となることが何となく場違いなように思えたし,アメリカ合衆国の民事訴訟手続については,小生より造詣が深い適任の先生がおられるようにも思えた。それでも,この仕事を引き受けてよかったと思っている。怠け者の小生が怠けずに済んだし,アメリカの民事訴訟手続について全般的に勉強しなおすことができたからである。
 本書の英文と叙述は,このシリーズの趣旨にそくした簡潔,明瞭なものであった。ただ,きわだった特徴として,助動詞のmayが異例なほど多用されており,その代わりにcanがほとんど使われていない。不思議だなぁ,と思いながら読みすすめるうちに,次のような考えが浮かんだ。つまり,それは,ある手続に関する説明について「~できる」(can)と言い切れないという著者の判断を反映しているということである。つまり,その箇所で説明している手続要件を充たしていても,目下のトッピックではないので直接触れられていない他の手続も同時にすべて充たしていなければ,canとは言えないということである。
 あるいは,mayは,州や地区によって手続が異なることを含意している場合もあるかもしれない。いずれにせよ,この語法は,そのままアメリカの民事訴訟手続の特色を表しているという感想をもった。はじめ一貫して頑固に「~しうる」と訳していたが,日本語だけ読みかえしてみると,どうも読みづらいので,「~できる」と訳した箇所が相当にある。したがって,読者の方々には「~できる」と書かれてあっても,原文はmayかもしれないと思ってお読みいただきたい。
 この翻訳を読むことを通じて同時に法律英語に触れる機会をもってもらいたいと考え,原語を頻繁に挿入した。「判決」や「弁護士」などの素朴な単語まで,それに相当する英語を添えた。また,必要に応じて,間隔をおいて2度明示した原語もある。英米法の用語に精通しておられる方々には,まことに煩わしいかぎりであるが,そういう趣旨であるのでご理解いただきたい。訳語の選択にあたっては,田中英夫編集代表『英米法辞典』(1991年)にほとんど準拠したが,例外的にそれと異なる訳語を付けたものもある。例えば,collateral estoppel は,「争点効」と訳されるのが一般的であるが,本書では,collateral estoppel effectという表現が何度か使われており,「争点効の効力」では重言になるので,「副次的禁反言(の効力)」という原語に近い訳語をあてた。また,process(訴状,被告召喚令状,始審令状)という言葉は,「訴状」という訳語が選ばれることが多いが,本書では,complaint(訴状)と区別する必要があったので,「始審令状」という訳語を選択した。Merriam-Webster's Dictionary of Law (1996)のprocessの項目には,「民事訴訟手続では,被告に対する召喚状(summon)の送達(service)が憲法上充分なprocessであると考えられているが,通常,complaintの写しも提供されなければならない」とある。
 本書が出版されて以来(第4版,1996年),合衆国最高裁判所は,連邦民事訴訟規則(Federal Rules of Civil Procedure)を何度か改正してきた。また,2003年12月に発効が予定されている改正もある。これらの改正は,部分的なものであり,改正された条項は,本書では言及されていないか,言及されていても,その部分の解説が要約的な叙述をしているので,改正後の規定に関する説明としても依然として有効である場合がほとんどであったように思う(1998年と2000年の改正について若干の訳注を付けた)。裁判制度に関する合衆国議会の制定法(28 U.S.C.A…)については,本書が出版された直後に州籍相違ケースに対する訴額の要件が変更された(5万ドルが7万5千ドルになった)ことその他について,若干の訳注を付けた。
 小林秀雄が「翻訳」(『新訂小林秀雄全集』第8巻所収(1978年))という題の短い文章の中で,良い翻訳するには,原文を何度も読み返して完全に頭に入った後で,原文を見ずに自分の講義をするつもりで訳すのがよい,という趣旨のことを書いている。小生の拙訳は,とてもその境地に達していない。しかし,できるだけ原文に忠実に正確に訳しながら日本語として読みやすく訳すという最低限のマナーには注意したつもりである。拙訳が,少しでも多くの人々に何らかの形でお役に立てることを祈念する。

<< 前のページに戻る

サイト内検索

↑ PAGE TOP