木鐸社

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『社会的責任投資』

原題:Socially Responsible Investing, 2001
A5判・228頁・定価:本体2500円+税 ISBN4-8332-2330-9 C0036
2002年9月10日発行

著者紹介

<著者>
エイミー・ドミニ(Amy L. Domini)
ミューチャル・ファンドDomini Social Equity Fund の代表
投資顧問会社Domini Social Investments会長
ウォールストリートジャーナルや投資に関するテレビ番組のゲスト・コメンテーターとしても活躍
株主行動主義で有名なICCR(Interfaith Center on Corporate Responsibility )の理事を20年間務めた。
Ethical Investing (Addison-Wesley, 1984); (Dow Jones Irwin, 1988); The Social Investment Almanac (Henry Holt & Co.,1992); Investing for Good (Harper Collins, 1993)いずれも共
写真

<翻訳>
山本 利明
1949年愛知県生れ。1973年一橋大学社会学部卒業。同年住友信託銀行に就職
この間、日本経済研究センター、米ブルッキングス研究所などに出向。
住信基礎研究所取締役企画総務部長 を経て
現在 財団法人トラスト60事務局長
日本におけるSRIの普及を目指す 社会的責任投資フォーラム(NPO法人)の運営委員
『金融の基礎テキスト』『金利・為替予測ハンドブック』『ボランタリー経済と企業』いずれも共著

内容紹介

 本書は投資に「社会的責任投資」(SRI)というアプローチを取り入れるための基本哲学を紹介する。投資に価値観を持ち込むことで社会的責任投資家は企業に確実で持続的な影響力を及ぼす。また一般大衆投資家こそ金融資本を話し合いのテーブルに就かせる力を持つ。SRIの研究機関として最も権威のあるKLD社の創設者の一人。Domini social Indexは著者が中心に開発したもの。

目次
日本の読者への序文
社会的責任投資のすべて
第1章 投資する方法が重要:社会的責任投資の目標を定義する
 グローバル資本主義による制覇
 社会的責任投資家のモティベーションは何か
 社会的責任投資家が使う三つの基本的アプローチ
第2章 過去は序幕である:社会的責任投資運動は如何にして始まり, 継続的に発展しているか
 信仰の遺産
 1968-1978年の時代背景
 南アフリカ問題の果たした役割
 健全なコミュニティを作る
 社会的責任投資発展のケーススタディ
第3章 投資をスクリーニングする:物事の本質を見る
 ネガティブ・スクリーニングの重要性
 質的ないしポジティブ・スクリーニング
 スクリーニングで容易にできる
 ソーシャル・スクリーニングではできないこと
第4章 直接的対話:投資家として変化を求めてきっちりものを言う
 株主の権利が行動主義への機会に結びつく
 タバコ・キャンペーン:行動主義の実践
 行動主義と環境
 やさしい株主行動主義
第5章 コミュニティ経済開発:地域を変える投資法
 コミュニティ開発ローンファンド
 コミュニティ開発銀行
 コミュニティ開発信用組合(CDCU)
 コミュニティ開発金融機関(CDFI)への組織的な支援
 CDFIへの投資
第6章 グローバルファイナンスとグローバル経済への影響
 一つの世界におけるSRIの三つの側面
 一つの世界でそれぞれの文化の最良の部分を得る
第7章 社会的基準を投資決定に活かす:このようにすれば儲かる
 ソーシャル・スクリーニングでより良い投資決定ができる
 株主との対話が企業をトラブルから守る
 コミュニティ経済開発
第8章 SRI(社会的責任投資)の力:より良い投資はより良い未来を作る
 金融サービス業界における良識を求める意見を確立する
 変革を引き起こすきっかけを作るSRI
補遺
 1.Kinder, Leidenberg, Dominiの社会的格付け基準2000
 2.ジョンソン・アンド・ジョンソンの社会的格付けの例
訳者あとがき・索引

日本の読者への序文

 本書は希望のメッセージを届けるために書かれた。読者は投資にあたり熟慮するという単純な行動によって,全人類の尊厳と環境の持続性が保たれた世界を創造する一翼を担うことができる。投資に価値観を持ち込むことがその方法である。
 本書(原題:Socially Responsible Investing)が日本語に翻訳されることになると聞き,私は興奮した。日本のマーケットではエコ・ファンドの役割が既に認知されているので,社会的責任投資はその考え方の延長線にあると言ってよい。ひとりひとりが投資の意思決定をする際に,熟慮し配慮することによって世界に対して積極的な貢献ができると,社会的投資家は信じている。


 ほとんどの人は良い人間であると思われたいものだ。自分のしたことが親切な行為となり,われわれの子供やまたその子供の導きになればと願っている。思慮深さと尊敬の念をもって,これらすべてに取り組みもうとしている。しかし同時に,世界に兵器があふれ,貴重な自然の資源が浪費され,人々が子供の教育はおろか食べさせ,衣服を与えるのさえ汲々としているのを見ると,絶望的になる。

 われわれは自分自身を苦難の原因だとも,救済の担い手になり得るとも思っていないが,実は違う。預金口座を開くにせよ,株や債券を買うにせよ,個人が投資をするということは,自分が思っている以上のことに参画しているのである。それはグローバル・ファイナンスである。投資家というものは金融や商業のエンジンが機能するのに必要な要素なのである。われわれ投資家は何を築き,何を築かないかを明らかにするとともに,築くにあたっては慎重であるべきなのである。


 われわれの価値観が正確に伝わらないとすると,地球を大切にするのは企業の役目ではないというメッセージを作り出してしまうことになる。経営者が金儲けのためにはそこまでやるかと知ってショックを受けながら,実際はそうすることを要求しているのである。中立だとか価値観と関係ないというような投資行動は存在しない。価値観なき投資は。価値そのものを危うくし,金融の力を社会のニーズと対立させてしまう。
 健全なシステムのために自然なバランスが保たれなければならない。自然についても,人間の幸福についても,グローバルなレベルでも同様である。われわれは今日,「金融や商業」と「マネーや貿易」との間の自然なバランスを追求している。文明が歴史のなかで進むにつれて,衣食住や快適さを世界のほとんどの地域にもたらしたという点では,資本主義は極めて効率的であった。投資家にインセンティブを与えて集めたカネで,工場が建設され商品が出荷・販売され,これらの商品を購買できる市民へ雇用機会を提供する。投資家は裕福になる可能性があるのでニュービジネスにも賭ける。


 しかし,資本主義の成功には犠牲が必要であったし,バランスも失われた。新たに「優しい資本主義」が必要とされている。今日の金融サービス業者は,かつての植民地主義者のように経済から絞りだせるものを絞り出し,その結果,市民生活の不安や環境破壊への対処を地域の人々に迫っている。
 社会的責任投資家の目標と信念は簡単なものである。われわれは環境のよい,安全な未来を求めている。今日どのように投資するかが,明日の世界を形成すると信じている。企業に投資する場合は,環境や安全が重要だと思っている。結局のところ,われわれのような一般投資家大衆こそに金融資本を話し合いのテーブルにつかせる力があるのだ。


 より良い企業に投資し,より良いオーナーとなり,より良い隣人となることによって,社会的投資家は確実で持続的な影響力を持ち続ける。ネガティブな影響を与えている企業が判れば,企業が何をすることが望まれているのかを明らかにし,フォローする。経営者と面会し問題を指摘するところまできちんとわれわれが株主の責任を受け止めるのならば,環境の行動基準や原材料調達の基準が新たに更新されるであろう。よりよき隣人として振る舞い,地域開発の貸出組織をサポートするならば,ローンを借りた人々の生活に直ちに好ましい影響がある。
 子供たちが住む世界を創造するために投資しなければならないとの思いを抱く個人が多くなればなるほど,企業のストラクチャーも対応して変わる。企業の社会的責任や環境報告を発表している多国籍企業は数十に及ぶ。しかし,社会的投資家になることの最も重要な点は,自分自身が何かをなし得る存在であることに気づき始めることだろう。希望もなくグローバルな力に翻弄される存在から,日常のどんなことにも思慮深く回答を求めていく心優しい存在に変身するのである。


 私はこの本によって,世界中の投資家が誇れるような未来を築くのに個人として使えるツールを提供できればと思っている。バランスが早急に回復されなければならないし,金融が政府や市民社会や消費者,そして環境を支配してはならないことをわれわれは知っている。為すべきことの重要性と地球が小さい存在で時間もそんなにないことも知っている。社会的責任投資は,より良き明日を築くのに参画しようとしている人たちに,希望と行動の指針を与えてくれるのである。

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